「よき人は怪しき事を語らず」…
「世に語り伝ふる事、まことはあいなきにや、多くは皆虚言なり」
「あるにも過ぎて人は物を言ひなすに、まして、年月過ぎ、境も隔たりぬれば、言ひたきままに語りなして、筆にも書きとどめぬれば、やがて又定まりぬ」
「音に聞くと見る時とは、何事もかはるものなり」
「げにげにしく、ところどころうちおぼめき、よく知らぬよしして、さりながら、つまづまあはせて語るそらごとは、おそろしき事なり」
「我がため面目あるやうに言はれぬそらごとは、人いたくあらがはず」
「皆人の興ずる虚言は、ひとり、『さもなかりしものを』と言はんも詮なくて、聞きゐたるほどに、証人にさへなされて、いとど定まりぬべし」
「とにもかくにも、そらごと多き世なり」
「ただ、常にある、めづらしからぬ事のままに心得たらん、よろづ違ふべからず。下ざまの人の物語は、耳おどろく事のみあり」
「よき人は怪しき事を語らず」