あなたならどちらのアドバイスに従いますか?(1)
あなたはある国の大統領です。
今、別の国の間で起きている何世紀にも及ぶ紛争の和平交渉の仲介役として、あなたは何年にもわたり交渉の間に立ち、今ようやく和平が実現しようとしています。
しかし、その和平の裏には裏取引や陰謀の隠蔽などがあり、それが明るみに出れば、あなた自身も罪に問われ、大統領職を追われます。
長年の夢である和平はぜひ実現したい…。しかし、裏取引や陰謀の隠蔽は決して許されない…。
あなたは今、一番の側近の首席補佐官、そして政治経験豊富な元大統領それぞれから意見を聞いているところです。
元大統領:「大統領、あなたは今、世界の大局を見ておられるのです。和平という大義
を…」
首席補佐官:「これが大義と言えるのですか?」
元大統領:「和平協定は紛れもない大義でしょう。大統領、あなたは世界が求めてきた和
平を実現する矢先に投げ出すのですか?」
「大統領、あなたがいかに苦労され、祈り、どれほど眠れぬ夜を過ごされたこと
か…。力が世界を変える。大統領、だからあなたは政治家になったのではな
いのですか」
「その志を為せる者は少ない。今まさに、あなたはあと一歩のところまで来てい
るのです」
首席補佐官を指さしながら:
「良識家の彼は反対するでしょうが、彼は単なる傍観者です。確かにこの和平
協定は理想とはほど遠い状況かもしれません」
「しかし、世界平和実現へのまたとないチャンスでもあるのです」
主席補佐官:「大統領、彼の意見は無視すべjきです。仮に今回の和平協定の調印が流れ
てしまったとしても、よりよい平和を誠実な相手と築けます」
元大統領:「物事には潮時があり、満ち潮に乗れば幸運へ辿り着けるのですよ。大統領、
ご存知ですね…」
あなた(大統領):「ジュリアス・シーザーね…。やるなら今だと…」
主席補佐官:「大統領、何を考えているんですか? 選択の余地などないはずです」
さて、あなたは元大統領のアドバイスに従いますか? それとも主席補佐官のアドバイスに従いますか?
もちろん、私は主席補佐官のアドバイスに従います。主席補佐官の言う通り、私には選択の余地など全くありません。
私にとって、元大統領の言葉は”悪魔の囁き”にしか聞こえません。
たとえ、「今がチャンス」であり、「あと一歩」というところまでこぎ着けていたとしても、「用いた手段」が他に犠牲を強いるような不誠実なやり方なら、手に入れられたとしてもそれは”砂上の楼閣”に過ぎないからです。
「よりよい」平和を、「誠実な相手と築く」ことの方が、私にはもっともっと重要なのです。
それこそが、私が考えるところのリーダーシップ論における「大義」であり、「大局」です。