目を合わせた途端に分かること…
決して目を合わせようとしない人々のことに思いを巡らせて思い出したのは、三島由紀夫の最初の長編小説「盗賊」です。有名な作品なので読んだ方も多いと思いますが、なんと言っても最後のクライマックスは秀逸でした。
「二人の目が傍目には甘美に出会った。しかし目を合わせた途端に、二対の瞳は暗澹とみひらかれ、何か人には知れない怖ろしい荒廃をお互いの顔に見出しでもしたかのように、お互いに相手の視線から必死にのがれようとし…」
なぜ、「美子」と美貌の青年「佐伯」は目を合わせて戦慄したのか? 三島由紀夫はこの小説を次のように結びました。「今こそ二人は、真に美なるもの、永遠に若きものが、二人の中から誰か巧みな盗賊によって根こそぎ盗み去られているのを知った」
どんなに若づくりで笑顔を振りまき空騒ぎしていても、心の内に「真に美なるもの」「永遠に若きもの」がないならば、それを気づかれまいとして目を合わせようとしない人がいても不思議ではないかもしれません。